つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

「医療の安全保障」を考えるきっかけに

 国家の安全保障について、われわれが一般的に認識しているのは、軍事的なものです。つまり、他国が我が国を攻撃、侵略しようと軍事的な行動に出てきた場合、これを防ぐための軍事的な防衛措置を講じることです。ちなみに、昨今の日本は、集団的自衛権を一定範囲で認める方向になっているので、片務的でしかなかった日米安保条約は一部双務的になっています。ですから、必ずしも「我が国(だけを)を攻撃、侵略」という限定的な言葉が適当かどうかは分かりませんが、、。

 そういう軍事的な安全保障のほかに、「食糧安全保障」「エネルギー安全保障」などという概念もあります。日本の今の食糧自給率は、国民摂取のカロリーベースで見ると37%程度。つまり、6割以上の食糧は海外依存だということです。この中には主食に近い小麦のほか、日常的に食べる海産物、野菜、果物も含まれており、こうした物品が入ってこなくなると国民の食生活は大混乱に陥ります。ですから、独立国が他国の干渉なしに生き抜くためには、食べ物の多くを海外に頼るのは好ましくなく、一定程度の食糧は自国内で生産すべきだという考えが出てきます。

 エネルギーも然り。本来、エネルギーも過度に海外に頼ると、自国の主体性を失います。米国はそのことがよく分かっているので、石油の中東依存を止めてシェールガスを開発しました。ですが、残念ながら日本はずっと海外依存の状態を続けています。一時、海外依存から脱却すべく原子力に加えて自然エネルギーを増やそうとしましたが、福島第一原発事故原子力依存は駄目になり、この方向性は狂ってしまいました。

 自然エネルギーだけでは心許ないので、主体は今、専ら火力発電ですが、その燃料である石油はサウジアラビアクウェートなど、天然ガスはオーストラリア、カタール、マレーシア、ロシアなどと海外依存しています。エネルギー確保の状態って、皮肉なことに原発事故のせいで、4,50年前と基本的に変わっていないんですね。だから、輸入先の情勢は大いに関心があるところ。オーストラリアは準同盟国、マレーシアはまだ安心できる国ですが、中東、ロシアはどうですか。

 日本の原油の99%は海外から、その8割は中東依存ですが、ペルシャ湾、ホルムズ海峡はイランやサウジ、イスラエルの対立で絶えずきな臭い状態が続いており、原油輸送タンカーの安定確保の面で大いに問題があります。ロシアもあの専制的な体制からいって必ずしも安全な輸入先とは言えないでしょう。となると、日本のエネルギー安保というのは非常に危うい状態にあるんじゃないでしょうか。

 前置きが長くなりましたが、今回の本題に入ります。安全保障には軍事、食糧、エネルギーのほかに、「医療の安全保障」という概念もあり、昨今はこれがクローズアップされてきました。医師、看護師らのマンパワーばかりでなく、医療機器、医薬品を過度に海外に頼っていると、肝心な時に入手できないという不測の事態が生じるということです。今は世界的なパンデミックの状態にあり、一部の国では、その現実をまざまざと見せつけられてしまいました。

 端的な例を挙げれば、マスク、防護服。現在、ほとんど生産を中国など海外に頼っていたので、いざという時にストアで品不足になりました。中国でマスク生産している日本企業が、ではさっそく大量生産し、日本に緊急輸入だとばかりに息込んだところ、船積み直前で向こうの税関当局に「現時点でのマスク輸出はまかりならぬ」と言われ、できなくなってしまったとのこと。日本企業であっても海外で生産すると、そういう目に遭います。

 人工呼吸器は、日本で規制が厳しく多くは生産されていません。これまでの需要と供給のバランスを考えれば、それほど必要がなかったのかも知れませんが、こうした感染症の爆発的な大流行、拡大の時には絶対的に必要になってくるので、本来はそこまで考えて、一定の生産を確保しておくべきだったのではないか。人工肺装置ECMO、呼吸器を扱うマンパワーも不足とのことで、今後のことを考えれば、恒常的に医師への感染症対応の習得を義務付けていくべきだとも思います。

 武器、軍備は非常時に使うもので、普段は必要ないが、われわれはそれなりに備えている。同じように、パンデミックは突然、大規模でやってくるので、普段は必要ないが、いざという時に対応できるように、それなりの医療体制を整えておくべきだと思います。

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  上の写真は、もうすぐ一周忌を迎える愛犬マオ。