つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

なぜ今、世界は独裁化傾向にあるのか

 ちょっと旧聞に属しますが、1月20日の米新大統領の就任式演説で、バイデン氏が「民主主義はフラジャイル(fragile)だ」と言ったのが印象的でした。fragileという単語は、航空荷物の上のシールによく見られるもので、「壊れ物注意」の告知ですね。小生も昔、空港で初めてその意味を知りました。同じような意味でfrail とかvulnerableという単語もありますが、バイデンがなぜか空港貨物並みのfragileを使ったのか。小生は英語が得手ではないので、分かりません。

 最近発生したみミャンマーのクーデターを見ると、バイデンの言う通り、本当に民主主義はもろいなとしみじみ感じます。確かに、民主主義は、政敵の行動を許容し、権力者は絶えず批判にされされ、政権を奪われるという”弱さ”を持ちます。その半面、独裁国家は、政敵を抑え込み、隅々に至るまで監視の目を巡らし、自らへの批判を許さない体制を作るので、特定為政者が長期権力維持には好都合なんですね。

 ミャンマーは長い間、民主運動の闘士アウンサンスーチー女史を自宅軟禁においてまで厳しい軍政を敷いてきた国。それが2010年、テイン・セイン大統領の下、やっと総選挙を実施、民主化しました。多くの国民が望んでいた政治の形が実現したのです。だが、それが10年しか持たず、今回またまた軍政に戻ってしまいました。戦前の日本でもそうですが、軍部が政治の舞台に出てくるのはろくでもない状態です。

 外電を見ていると、軍部がクーデターを起こしたのは、ラカイン州にいるインド系人種ロヒンギャに対し、スーチー政権が甘い対応を示していたことが原因だとのこと。これまで国際世論はスーチー女史に対し、ロヒンギャへの扱いが酷いということで、「ノーベル平和賞をはく奪すべきだ」という意見すらありました。軍部はスーチーさん程度の厳しさでは物足りなかったのでしょう。もっと徹底的に弾圧し、バングラデシュに追い返すべきだとの見解だったのかも知れません。

 それはともかく、世界はどうしてこうも独裁化傾向にあるんだろう。中東の雄エジプトは、アラブの春ムバラク政権が打倒されたのに、今また軍出身のシシなる独裁政権に戻っています。シリアは内戦が長引いても、アサド独裁政権は倒れません。苦労してソ連の呪縛から逃れ、民主化を果たした旧東ヨーロッパも同様。ポーランドカチンスキは強権政治を敷き、ハンガリーはオルバン政権がやはり長期独裁化の流れになっています。彼らは昔、ソ連支配に歯向かった民主化運動の闘士だったのに、政権を取ると自ら独裁者になってしまったんですね。

 ロシアのプーチン大統領は言わずもがな。昔所属したKGBの人脈と組織をフルに使って独裁体制を強めています。人気ある野党政治家ナワリヌイ氏を毒殺しようとしたばかりか、ドイツで治療を終えて帰国すると今度は逮捕、監禁の挙に出ています。この国は昔から政敵には厳しい。かつてスターリンは海外に逃れた政敵トロッキーをメキシコまで追いかけて行って撲殺したし、最近でも海外にいる同国人を襲うケースが見られます。旧ソ連に属した中央アジアの諸国もなぜか”宗主国”ロシアを真似て独裁国家ばかりです。

 よくよく考えれば、民主主義の本家である米国ですら、あのいかがわしい前大統領は自分の気に入らない部下を次々と首切りし、記者の質問には「それはフェイクだ」と言ってまともに答えない、取り合わない。その上最後は、選挙結果にも従おうとしませんでした。これも”立派な”独裁化傾向でした。彼は米国などでなく、自分で勝手に政権担当期間のルール変更ができる国に生まれていれば、もっと幸せに生きられたのかも知れません。それにしても、最近、彼の顔がテレビに出ないだけでも、小生は気分爽快です。

 政権担当期間のルール変更と言えば、プーチンは野党を弾圧した上、自らの在任可能期間を最長2036年までと延ばしました。彼の今の年齢からすれば、36年まで生きられるかと言う問題もあり、異常な決定としか思えません。中国の習近平プーチンを見倣ったのか、国家主席10年というルールを変えてやはり終身権力者を可能にしました。それにしても、人民はなぜもっと反発しない。独裁政権では自由が縛られ、人権には程遠くなるのに、それでも良しとするのか。外国から見れば、独裁政権は対外的に協調姿勢を持たず、強硬姿勢に出てくるから困りものです。

 安倍政権の7年8カ月でも長いと思い、最後は飽きがきました。それに比べて、プーチン習近平はもっと長い。ロシアなどは民主主義国の形を取っていますが、実態は独裁国です。ナワリヌイ氏によれば、プーチンは森の中の壮大な「王宮」まで建造しているとのこと。それほど、権力の座というのは魅力的なのでしょう。そう言えば、日本の大手新聞社、大規模新興宗教にも90歳になって権力ある地位を手放さない人がいますね。権力者の「禅譲」などという言葉は虚しい響きでしかありません。

 上の写真は、横浜駅隣アソビル内にある展示物。