つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

オリンピック開幕式の長嶋登場はミスキャスト

 何やかや言っても、オリンピックはビッグイベントであり、まして東京開催となれば、どうなるのか関心を持たざるを得ないので、開幕式は全部見てしまいました。一言で言うと、事前の辞任、解任のお粗末なトラブルが続いた割には、全体の構成、演出は素晴らしかったと思います。それは、いかにも我が国が素晴らしいぞと言わんばかりに最先端の機器を見せびらかせたり、”偉大な”国の歴史や文化をデフォルメ回想するような仰々しいものでなく、普通の人間の営みを表現しており、見ていて心が安らぐ感じがありました。

 ミーシャなる女性歌手、小生存じ上げないのですが、アカペラで君が代を独唱したのは良い演出だったのではないでしょうか。今年1月のバイデン米大統領就任式でレディー・ガガが「星条旗を永遠なれ」を独唱したのを真似したのかどうかは知りませんが、国歌は独唱が良いと思います。ただ、難点は言えば、君が代はやはり重々しい歌なので、個人的にはできれば男性歌手のしかも低い声でやってほしかった。橋本聖子、バッハ両会長のあいさつは長すぎた。自分たちが主役と勘違いしているのではないか。中継は世界各国に流れているのだから、橋本会長は少なくとも英語で演説すべきだったでしょう。

 各国選手入場は、これまで国名のアルファベット順が当たり前でした。今回、これを日本式にアイウエオ順にしたのは一つの工夫でしたが、世界的に見ると、ちょっと分かりにくいのでは。ABC順に飽きたのであれば、いっそ南北米州、欧州、アフリカ、中東、アジアなどの地域別にするのも一つの手かと思います。というのは、いつも分からない国名が出てくると、「この国、どの辺にあったけ」と地図を広げてしまうことが多いからです。大陸、地域ごとの集まりなら理解しやすい。

 聖火リレーはイベントの華で、最終部の走者が誰かというのはとりわけ関心が高いのです。最初に吉田沙保里野村忠宏の五輪3連覇コンビが出てきたのはまずまず結構な趣向。ですが、内人のように「じゃ4連覇した伊調馨はなぜ出ない」と思った人も多いのではないでしょうか。それに、2人が次に手渡したのが王、長嶋、松井のプロ野球OBトリオだったが、感心しません。特に満足に歩くこともできない長嶋を出したのはいかがなものか。長嶋はわれわれ世代のスーパーヒーローであり、小生にとって郷里千葉県の偉人であり、誇らしいのですが、この場合はミスキャストだと思います。

 まずサッカーと違ってインターナショナルスポーツでない野球の、しかも国内野球でのオールドヒーローでは、外国人には理解されにくい。「Nagasima、Who?」となってしまう。それから、日本人の若い世代もピンとこないでしょう。何しろ、長嶋の選手時代どころか、監督時代さえ知らないのですから。ついでに言えば、王貞治松井秀喜も。王は世界一のホームラン記録保持者で、WBCでも監督優勝しているし、松井もメジャーリーグでそこそこ活躍したので、そこそこ有名人でしょうが、それでも日本、米州までの範囲であり、他大陸の人は分かりにくい。

 アトランタ大会では、最終聖火点火者にパーキンソン病モハメド・アリを登場させ、世界をあっと驚かせたのですが、それはアリがイスラム教徒として中東アフリカでさえ知られる世界的ヒーローであったからです。身体障害を持ったオールドプレーヤーを登場させて、アリと同様に世界の驚きと同情を呼ぼうとの演出だとしたら、それは逆効果、贔屓の引き倒しです。長嶋のあんなに歩けない姿を見ると、却ってわれわれ世代は痛々しさ、悲しさを感じてしまう。第一、松井の支え付きでは聖火走者(ランナー)とは言えない。一生懸命走った他の聖火ランナーに失礼でしょう。

 結論的に言えば、プロ野球の3人を出したのは間違いだったのではないかと愚考します。身障者スポーツへの配慮を示したいのなら、国枝慎吾、上地結衣の車椅子テニスの男女コンビを出すべきです。2人こそ、パラリンピックグランドスラムテニス大会で活躍する世界的なプレーヤーなのですから、少なくとも長嶋よりは世界的に知られる存在かと思います。最終点火者の大坂なおみはベストチョイス。選手団旗手の八村塁と並んで、普通の日本人とは違うカラードの2人を見ると、日本でも人種的ダイバーシティー(多様性)が進んでいるという点が世界的に印象付けられたかと思います。

 直前にさまざまなトラブルがあった割には、開幕式の構成、演出は全体的に素晴らしかったと思います。小生は、ねぶたや竿灯のような大仕掛けな祭りの登場があるかと思っていたのですが、登場したのは木の輪や台を持ち出して、そこに大勢の人間が絡む動きや踊り、ピクトグラム男のパーフォーマンス、海老蔵とジャズピアニストのコラボ。コロナ禍で大変な時期でもあり、こうした比較的地味な演出は、安心して、落ち着いて見ていられました。ドローンによる空中でも五輪エンブレムの造形、それが地球に変化させたのも日本の職人技を感じさせ、見事だったと思います。金満国のけばけばしい演出はもううんざりです。

 上の写真は、野毛山公園で見たアガパンサスと街中で見た「香港花」。