つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

トランプはやはり不動産屋の発想

 トランプ米大統領がメキシコとの壁建設にゴーサインを出す大統領令に署名したようです。選挙期間中に言っていた話なので、驚くことはないんでしょうが、TPPへの不参加表明と同様、やることが早すぎます。共和党の他幹部の意見も聞かず、さっささっさと自分の主張を具体化していいのものでしょうか。党内の人は抵抗もせず、黙認するだけなのでしょうか。
 それにしても、「壁、壁」と選挙中からうるさかったですね。小生はトランプ氏の「壁」構築を聞くと、思い出すことがあります。中国深圳市と香港の間には通関、いわゆる関所があります。中国側はこの関所について、かつて深夜時間帯の通行を禁止していたのです。それを、2009年1月から24時間通行可能にしたのですが、この予告が出た直後、香港で大反対の声が沸き上がりました。
 反対の表面的な理由は、香港に”下品な”大陸中国の人間が大量に入り込むことを香港人は望まないということだったのですが、本当の理由はそんなことではないのです。実は、反対運動を煽ったのは香港の大企業である長江実業、ヘンダーソンサンフンカイなどの不動産業界だったのです。
 なぜ不動産屋さんが反対するのか。深圳・香港間の行き来は片道わずか1時間ほどで可能ですから、もし両都市間の通行が深夜を含めて自由になれば、深圳から香港への通勤、通学は十分可能になります。そうなれば、労働者はわざわざ価格の高い香港内でのマンションを買わず、深圳での比較的安い住宅購入を希望することになりましょう。香港での住宅売り上げは減少します。
 つまり、高級なところを隔離するための壁があればあるほど、その土地は絶対的なものとなり、不動産の価値は維持されます。人やモノが自由往来すればするほどその土地の価値は下がる。香港の不動産屋さんはその辺のところを分かっていたので、土地の価格が安い深圳との24時間自由通行に反対したのです。
 昨今のトランプ氏の「壁」話を聞くと、米国の土地、住宅、オフィスビルの価値を下げたくないという、どうも不動産屋さんの発想であるような気がしてならないのです。彼がビジネスマンと言っても、いわゆる主流である製造業出身ではない。製造業者は自らの利益を長い目で見れば、グローバル化した方が利益になるということがよく理解できるはず。その意味でトランプ氏は真のビジネスマンではないのです。
 再三触れているように、経済全体で見た場合、保護貿易や国境の壁は自国の生産物や雇用を守るという意味で短期的に喝采を浴びるかも知れません。自国優先の発想は悪いことではありません。ただ、保護貿易となれば、海外から安いモノが入らなくなり、国民は結局自国の労賃の高い労働者が作った高いモノばかり買わされる。「壁」は人の流れも阻害し、米国がそれまで享受してきたサービス業などの安い労働力を得ることができなくなります。長期的にはその国の利益を損なうということを理解すべきです。

 上の写真は、スリランカコロンボ市内の独立広場の風景。