つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

トランプ首脳外交の危うさ感じただけ

 小生も大学で国際関係論などを講義している関係上、シンガポール米朝会談には大変関心を持って見守っていました。でも、合意内容を見てびっくり。「朝鮮半島の非核化」という大枠を示した先の南北朝鮮首脳会談の中身とほとんど変わりなく、新鮮味は何もなし。北に核兵器の廃棄を迫る具体的なスケジュール、プロセスもまったく約束させていませんでした。ポンペイ国務長官が事前に再三ピョンヤンを訪れ、十分な協議をしていたにもかかわらず、成果がないとは何事か。トランプはこれでよく会談などに応じたものです。
 これも一つの国際的な政治ショーと見れば、まあまあ見応えがありました。今まで「おいぼれ」とか「小さなロケットマン」とか言ってののしり合っていた2人が第3国で握手し、会談するというのですから。でも、厳密に2国間、あるいは北東アジアの安全保障にかかわる外交交渉という視点で見ると、トランプのお粗末さが際立ちました。核兵器に関するCVID、つまり完全(complete)かつ検証可能(verifiable)、不可逆的(irreversible)な核廃棄(denuclearization)などが合意文書に載らないのに、北の独裁体制継続の保障はしているのです。
 加えて、金正恩から何の譲歩を出させないうちに、トランプは次から次へと相手の歓心を買うようなカードを切っています。例えば、米韓軍事演習の中止、将来的な在韓米軍の撤退。これらは、対北朝鮮ばかりでなく、中国やロシアをにらんだ北東アジア全体の西側安全保障の枠組みの中にあるのですが、彼はまったくその点が理解できていないようで、無暗にか、無意識にかは知らないが、次々にこれを繰り出しました。
 さらに、「私もピョンヤンに行くし、金正恩委員長もホワイトハウスに招きたい」などという発言を聞くと、そら恐ろしさを感じます。おべんちゃらにしてもひどすぎる。この人、潜在的な敵対国と同盟国の区別すら分かっていないのではないか、よくこんな奴を米国民は大統領にしたものだとあきれてしまいます。不動産屋の交渉ではこんな”大風呂敷”もありなんでしょうが、外交交渉はステップ・バイ・ステップが肝心であって、一足飛びはないのです。本当にトランプ外交交渉に危うさを感じます。
 敵対国同士の首脳会談にいつもは手放しで喜ぶ日本の大手紙の社説も、今回のトランプのやり方には呆れています。一番喜びそうな朝日新聞が今回一番辛辣で、「2人で交わした合意は画期的と言うには程遠い薄弱な内容だ」と酷評し、「トランプ氏は本当に(北朝鮮にだまされ続けてきた)過去から学んだのか」とも非難しています。これに比べたら、産経社説の「歴史的な会談は大きな成果が得られないまま終わった」、読売社説の「評価と批判が相半ばする結果」などの書き方はおとなしいものです。朝日は期待値が高かった分だけ、激しい落胆となったのでしょうか。
 一つ指摘しておかなければならないのは、独裁者は外交交渉の重要なカードとなるべき一定の”果実”をつかんだら、その後嵐が来ようと、槍が飛んで来ようと絶対にそれを手放したりはしません。北朝鮮はすでに初歩的に大陸間弾道弾(ICBM)と核兵器を開発しました。あとは核を小型化し、ICBMの弾頭搭載可能まで精度を高めなくてはならないのですが、それにはまだいささかの時間が必要です。今年年初から突然、平和攻勢に出てきたのはその時間稼ぎなのです。
 和平攻勢はあくまで独裁者の時間稼ぎの策略であるという視点で、今回の米朝首脳会談を見る必要があります。国際政治は、希望的観測をしてはならず、いつも最悪のシナリオを想定し、その方策を考えておかなければなりません。

 上の写真は、山梨県乾徳山の山中で見た樹木の花。名前を聞いたが失念。