つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

米国がアフガン・タリバンを交渉相手にする理由

 テーマが偏りがちで申し訳ないのですが、またまた国際情勢に言及します。小生が最近注目している動きが米国とアフガニスタンタリバンとの和平協議です。2001年9月11日の米国東部同時多発テロを実行したのは、オサマ・ビン・ラディンが率いていたアルカイダという過激派武装集団。ですが、時のブッシュ・ジュニア米政権はイスラム過激派武装集団はどこも一緒だとばかりにアフガン・タリバンも報復の的とし、9・11のあと間髪を入れずアフガンに攻め入りました。

 タリバンと言えば、あの中東でもまれな大型仏教遺跡「バーミアン」を爆破する前代未聞の暴挙をした集団です。歴史的、文化的な価値をみじんも考えない愚か者。一時期アフガンを支配していた時代、子供に教育を受けさせない、女性を外に出させない、そんなルールを作っていた野蛮な連中。米国がよく話し合いの相手にしたものです。驚き、呆れてしまいました。交渉するとは、相手の存在を認め、そして、これからもアフガン国内で一定の勢力を保つことを了承したということですが、戦争までして毛嫌い、対立関係にあったタリバンを米国はなぜ取り込もうとしたのか。

 最近の米国の世界戦略をよく見ると、この動きはおぼろげながら分かってきます。米国はもう”世界の警察官”にはならない、できることなら永遠に混乱が続くと見られる中東地域への介入は避けたい、ユダヤイスラエルイスラムの中東諸国との対立への介入ならまだしも、スンニ派シーア派というイスラム国同士の宗派闘争には関与したくないし、過激派集団のテロ行為もイスラム国内でやるなら勝手にやってくれといったスタンスになった感じがします。

 米国がタリバンを取り込んだもう一つの理由は、中国包囲網を作り上げることです。ほとんどの人に知られていないのですが、アフガニスタンはワハン回廊という細長い陸地を通じて中国と国境を接しています。どの大国もそうですが、自らの周辺国の国内では混乱があった方がいいと思っている、その方が大国の影響力が行き渡るし、自らへの脅威もない。つまり、中国は隣国アフガニスタン国内の混乱は好都合、混乱を引き起こす過激派集団の存在は大歓迎でしょう。

 逆に、米国にとっては、アフガニスタンは政治的な統合を果たしてもらった方がいい。アフガン政府がタリバンを一つの政治勢力と認めて国内が収まれば、それまで内に向いていた力は今度は外に向かうから。今、中国新疆ウイグル自治区では、イスラム教徒への再教育という名目で、多くのウイグル人少数民族が「集中キャンプ」に強制収容されています。アフガン国内が収まれば、過激派集団を含めたそこのイスラム教徒は、宗教上の仲間を助ける意味で、今度はそちらの方に関心を向けるかも知れません。

 米国は今、世界戦略の最優先課題として中国の包囲網を作る、そのために周辺国の政治的混乱をなくし、社会秩序を保つことに腐心しているように感じられます。という符牒で見ると、米国は中央アジアにしろ、朝鮮半島にしろ、インドシナ半島にしろ混乱があるのを歓迎しない。朝鮮半島でも、米国は南北の対立を望んでいないのでしょう。文在寅が望むなら、刈り上げ頭の独裁者が支配する朝鮮半島でも、認めようというスタンスではないのか。再三書いているように、統一朝鮮国の方が中国に対する圧力は増しますから。

 という視点で見ると、中国は統一朝鮮国の成立など論外でしょう。もし、統一朝鮮国が米寄りになったら、米国の影響力は鴨緑江を挟んで中国の対岸に及びます。それはそれで中国の共産党一党支配体制にひびが入ります。中国にとって北朝鮮という地理的なバッファーゾーンがあった方がいいのです。ですから最近、北朝鮮に外相を派遣、金正恩にしばしば接触させているのは、金正恩に対し米側の目論む「統一朝鮮国」構想に乗らないよう説得しているのだと思います。

 実は、日本にとっても、中国と逆の形ながらまったく同じ意味で、統一朝鮮国は望ましくないシナリオです。中国、ロシアという大国の政治的圧力を朝鮮半島の38度線で防御していただいていたのですから。国際情勢が分かる人は、日本の安全保障に絡めてずっと38度線の意義を理解してきました。それが、統一朝鮮国となれば、防御線の存在がなくなるばかりか、反日の統一朝鮮国の圧力が対馬海峡まで及びます。恐らく中国に対しても強く出るでしょうが、日本に対してはもっと強く出てくるはずです。日本にとって好ましい状況であるわけがありません。

 

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 上の写真は、横浜・みなとみらい地区の運河を挟んでランドマークタワーを望む景色。