つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

ウクライナと台湾は米にとって意味合いが違う

 ロシアのウクライナ侵攻を見て、「ひょっとしたら、中国がロシアの真似をして台湾侵攻に出るのではないか」との予想をする人が結構いました。まあ、ロシアのプーチンと中国の習近平北京冬季五輪の開幕式時にも会談しており、親しい様子を見せているので、何だか2人で密議をこらし、欧米の力を分散させるため、西と東で同時に侵攻することで話がまとまったのではないかと、かなりの人がそう考えたようです。でも、ウクライナ侵攻から3週間以上たつけど中国の台湾侵攻はありません。実際どうなっているのか。

 小生もチャイナウオッチャーの端くれとして見方を言えば、この時期に便乗して中国が台湾にちょっかいを出すことはないと思っています。ロシアが短期間でウクライナを制圧したならば、あるいは”便乗侵攻”があったかも知れません。ですが、ウクライナ人民の予想外の抵抗のすさまじさを見て、侵攻のゲインよりロスの方が多いと中間総括し、簡単に侵攻などできないのではないか、と習近平は今、考えているように思います。

 ウクライナと台湾について、米側から見れば、同一視はできません。残酷な言い方をすれば、ウクライナ旧ソ連の一部であり、もともとロシアの勢力圏。しかも、集団安全保障体勢のNATOにも加盟していないので、米国にとっては死活的な感じがしないのです。それに比べ、台湾は、中国が「不可分の領土」などと主張しようとも、現在の政権は中国の太平洋進出阻止の重要な防衛ラインの一翼を担っている。米国は、太平洋を自らが管理する大洋と認識している以上、中国の進出を認めるわけにはいかない。そういう意味では、台湾の防衛は米国には死活的な意味があり、ウクライナとは大きな差があるのです。

 今、ウクライナ侵攻に対し、西側周辺国は難民受け入れなどの人道的な支援をしているが、積極的な軍事的支援はしていない。それは周辺国はすべてNATOに加盟しているため、彼らが動けばロシアと米、カナダを含めたNATOとの直接対立、すなわち第3次世界大戦を招来しかねない。その点、台湾は世界的に見ればあくまで「一地域」であるので米国は条約上の約定はないが、国内法で台湾支援を義務付けている。日本も周辺事態法を受けて中国の台湾侵攻に無関係でいないだろう。

 南太平洋に領土を持ち、中国の太平洋進出を快く思わないフランスや英国、また南太平洋島嶼国との関係が密なオーストラリアも黙ってはいない。当然、台湾防衛の軍事的な支援に出るであろう。ASEANはどうか。台湾侵攻があれば、現在でも南シナ海の専有化を図る中国に不快感を持っているベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールは、台湾の次は我が方に来るとばかりに危機感を募らせ、表面的か側面からかは分からないが、台湾支援に回るであろう。

 戦局を見ると、どうか。ウクライナはロシアの地続きの国であり、戦車や装甲車で簡単に国境を越えられる。現に、ロシア兵の中にはウクライナに入ったことを知らず、ロシア国内での演習だと思い続けていた者もいたとか。その点、台湾は島ですから、事情が異なる。これを制圧するには、まず周辺の軍事的な制空、制海を実現させなくてはならないが、これは容易なことではない。第2次大戦の時、ヒットラーは英国への侵攻上陸を考えたが、結局、実現が難しいということであきらめ、地続きで電撃戦ができるソ連への侵攻に替えた。島国というのはそれほど防御性が高いのです。

 中国国内的に言えば、習近平指導部は一枚岩ではない。党内に反対派が数多くいるのです。もし、今のウクライナのロシア軍のような醜態を見せたら、すぐに反対派に付け込まれるでしょう。習は元情報機関の一員でもないので、プーチンのように自在に情報機関を駆使して暴力的に反対派を抑え込むことはできない。さらに付け加えれば、中国の現在の将兵のほとんどは一人っ子政策世代の子供たち。親が「祖国統一」などというスローガンに強く同調するとは思えず、そのために一人っ子を戦場に送ってもいいとは思わないでしょう。

 と見ると、中国軍の台湾侵攻の実現性は薄い。ただ、ロシアのウクライナ侵攻もないというのが世界のウォッチャーの大方の見方だったが、実際にプーチンは19世紀、20世紀初頭型の露骨な他国侵攻を行った。独裁者は狂うと手が付けられないので、用心の上にも用心の心構えが必要だが、、。

 上の写真は、グーグルのピンテレストから引き抜いたもの。犬でも仲間をかばうところがある。