つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

民進党造勢大会見て「人間パンのみで…」を感じる

 総統選取材のため、5日間ほど台湾を訪問していました。で、各党の支持者が気勢を上げる造勢大会を見たし、いろいろな方にもお会いして台湾の政局、中台関係などについてさまざまな見解を聞きました。それにつけても自由と民主主義っていいなあとしみじみ思います。大陸中国では、共産党の幹部にはとても近づけないし、今ではメディアの関係者に対してもインタビューなどできないでしょう。反スパイ法がありますから。暗黒の秘密主義の国、「保密」の巨塔の中で陰謀をめぐらす共産党というイメージは拭えないのです。

 今次総統選の投票率は71・86%とのこと。日本では、政権選択で比較的関心の高い衆院選ですら50%前後で6割などはとても行かない。ましてや県、市町村の地方議会レベルでは3割程度の投票率です。まあ、政治に関心がないというのは、そこそこ現状の政治に満足している、別に変える必要もないとの判断が多くの選挙民にあるからでしょう。その点、台湾選挙民は今でもずっと大陸の軍事的、経済的圧力を受けています。大陸の習近平政権に対してどういう意思を持つのかを投票行動で明確に示したいということで投票所に足を運ぶのだと思います。

 与党民進党、野党国民党の双方の造勢大会を見てきました。投票2日前に総統府前広場で行われた民進党の集会は度肝を抜かれるくらいの大勢の人が集まりました。15万人以上いたでしょうか。同行の記者OBの仲間と語らい、なるべく演台の近くまで行きたいと思って群衆をかき分けたのですが、無理。とても先に進めない。小生などは密集具合を見て、ついつい2年前のハロウィーン時に起きた韓国ソウルの梨泰院の圧死事故を思い出し、怖くなってしまいました。その時、大会の演台ではなんてことはない、若者グループが踊りと歌のパフォーマンスをしていただけなんですが…。

 印象で言えることは、集会では大陸への激しい嫌悪感、大陸とつるむ国民党への反感が充満していました。直前に「習近平主席を信じなければならない」などと発言した国民党の馬英九前総統に対しては強い反発が示されたのです。「馬英九よ、大陸に嫁に行け」の文字が書かれた横断幕を持った人もいました。民進党支持者は、経済的なつながりで大陸から恩恵を得ることより、一国二制度などで深い関係になったら、台湾の自由と民主主義が危機的状況に陥るという政治的、社会的な視点を重視したのでしょう。

 確かに、「人間、パンのみにて生きるにあらず」という聖書の言葉があります。パン(食物)以上に精神的なことを重んじる意味は大きい。自由な思考、発想を失うことは人間としての尊厳どころか存在すら失うことになってしまいますから。それが、絶えず食物を求め続け、その他は生殖本能しか持たない人間以外の動物との違いでしょう。われわれ日本人は少なくとも思いを自由に表現できる社会がある。そして、台湾人も同じようにそれを享受し、喜んでいる社会を共有している。それを感じられただけでも造勢大会を見る価値がありました。

 残念ながら、大陸中国の政権、いや独裁政権の一般的な傾向として、社会に自由な空気などありません。住民にはそこそこメシを食わせておけばそれでよい、お上が何をやるかなどに関心を持つべきでないとの考えがあるからのようです。ですから、政権をチェックするメディアは発達しません。メディアはむしろ敵だと認識していましょう。メディアの監視がない独裁政権はやがて侵略戦争に突き進む流れになります。それは、プーチン・ロシアの例を見れば歴然です。 

 馬前総統が「習近平主席を信じなければならない」と言うのでしたら、われわれは台湾侵攻がないことを信じていいのか。ただ、台湾で小生が会った多くの学者、アナリストはこの馬前総統発言は選挙戦に大きなマイナス効果を与えたと言っています。という観点からすれば、台湾人のほぼ100%は習近平を信用していないということになりましょう。「信じる者は救われる」という聖書の言葉がありますが、むしろ世間一般では「信じる者は足を掬われる」ことの方が多い。同じ「すくわれる」ですが、えらい違い。亡くなった小生の親友がよく冗談で言っていましたが、中台関係についてはそれが当たっているようです。

 上の写真は、小生自宅近くの野毛山公園の池に飛来するサギ。鳥のサギは素晴らしいが、政治家の詐欺はいやだ。