つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

アナリストは頼清徳勝利より戦後の状況に関心

  11日から台湾総統選見学のために台北を訪問しています。香港駐在時代は2か月に一回の割で台湾を取材に訪れていましたし、退職してからも4年ごとの総統選を見に来ました。蔡英文総統2期目の是非を求めた2020年の総統選にも来ています。という意味では勝手知ったる都市なのですが、やはり4年経つとかなり街の様子が変わっているので驚きます。1990年代は全体に田舎臭い感じがしたのですが、今では都市整備がされているし、台北を見る限り、もう立派な近代”国家”という印象です。

 総統選の結果は大方がご存じなので触れません。台湾人らへの事前の取材で、多くの人は民進党の頼清徳候補が国民党の侯友宜候補に対し80万票引き離したら大勝利と見ていたのですが、結果は90万票以上の差となりました。地元の統一派新聞「聯合報」などは”僅差の勝利”などと大陸にごまをすったような書き方をしていましたが、これは穿った見方。やはり3党候補が出て40%以上の得票率であれば大勝利に間違いないでしょう。

 勝利の理由はさまざまに報じられていましたが、国民党の大御所、馬英九元総統が選挙近くなって「習近平氏を信頼している」などと大陸寄りの発言をしたことが大きな要因だと言われています。事前取材した多く方もそれを強く指摘していました。この発言だけで20-30万票の減票になるのではないかとの見方も。大陸が怖いと言っても、中共にすり寄る政党はやはり台湾人に嫌われます。馬先生は状況の読めない、実にばかな発言をしたものです。

 中国は民進党の頼候補を「根っからの独立派」だとしてさまざまな手を使って引き落としの選挙干渉に入りました。選挙がない国が台湾の選挙に異常な関心を示すというのはある意味滑稽な構図です。まず台湾の通信網に打撃を与えるような気球を飛ばしたこと、さまざまな発言で圧力をかけたこと、さらには両岸の事実上の自由貿易の枠組みであるECFAの制限を示唆したこと。あの手この手で野党の国民党を引き立てようとしたのですが、自由を謳歌している台湾人はそんなことにめげませんでした。若者を中心に台湾人は中共の圧力にしっかりノーを突き付けたのでした。

 投票前夜に民進党と国民党の「造勢大会(活入れ集会)」を見てきました。民進党は若者が多く、しかも個人が自分の意思で来ている感じですが、国民党の方は旗を持ち、体にゼッケンを巻いた集団がほとんど。集会の外にはバスも待機しており、参加者は地方から動員された様子が感じられました。こんな風景を見る限り、やはり投票日前から民進党の勝利は動かないなと小生ですら思いました。

 ですから、事前の取材で会った人は、総統選の勝利者がどちらかという話題を出さず、立法院議員選挙の構成比はどうなるか、ねじれ国会になったら頼総統の下でだれが行政院長(首相)になるのか、だれが立法院長(国会議長)になるのか、民衆党は藍に付くのか、緑に付くのかという関心ばかりでした。もちろん、中台関係も大きな話題ですが、これは「現状維持」という蔡英文総統の路線を引き継ぐのでしょうから、今とそれほど大きく変わることはないと思われます。

 問題は一つ。中国がさらに台湾への軍事的圧力のみならず、経済的な圧力を強めることでしょう。ECFAの制限はどこまで行くのか。前にも中国は台湾のパイナップルの輸入に制限をかける嫌がらせをしました。パイナップルは民進党の地盤である台湾南部が産地なので、その産地住民を重点的に圧力をかけたのです。ですから、中国は今後、民進党の支持団体、企業はどこかなどと事細かく分析し、ワンポイントで攻撃を仕掛けてくるように思われます。圧力は実を結ばないというイソップ物語の「北風と太陽」の寓話が分からない国家は悲しいものです。

 上の写真は、台湾総統選2日前に総統府前で行われた民進党造勢大会の様子。下の方は南京西路の新光三越デパート下にある名店「鼎泰豊」の小籠包製造風景。一個いっこ手作りなのがすごい。うまいから、1時間以上並ばないと入れないレストラン。