つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

退路を断たれたワグネルよ、プーチンに叛旗翻せ

 今、世界の注目はウクライナの戦況にありますが、その中でも要衝バフムトを攻めていたロシアの民間軍事組織「ワグネル」の動向が一番気になります。そこで驚くことに、ワグネルのリーダー、エフゲニー・プリゴジンがこのほど、「弾薬が届かないのでバフムトを引き払い、転戦する」との意思を示したのです。本来はバフムトからさらに進軍したかったのでしょうが、同軍団はすでにバフムトの戦いで2万人以上の死傷者を出しており、弾薬がなければさすがに戦闘続行は無理と判断したようです。

 前にも書きましたが、ワグネルの主力兵員はロシア各地の刑務所に入っていた囚人。刑務所という公的な施設に収容されている人間を民間の軍事組織がリクルートするという図式がわれわれ法治国家に住む人間からすると、まったく理解できません。プーチンプリゴジンの盟友関係からできた”超法規的”な措置なんでしょうね。これ一つ見ても、ロシアという国は「大統領」なる官位に就くたった一人の独裁者によって左右される人治国家であることが分かります。

 ワグネルは多大な犠牲者を出し、バフムトで精いっぱい戦ったようです。一時、都市部のほとんどを占拠し、ウクライナ軍を周辺の高地に追いやるほどでした。敵ながらあっぱれです。ただ、弾薬が尽きて反撃され、仕方なく撤退し始めたようです。その撤退の中で、プリゴジンが明らかにしたところによると、撤退路にはロシア軍によって地雷やプラスチック爆弾が埋設、敷設されているとのことです。早い話、ワグネルは撤退するな、死ぬまでバフムトで戦えと言われているようなものです。

 この仕打ちはショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長らロシア軍上層部の指示なのか、それともプーチン自身の命令なのかは分かりません。いずれにしても、ワグネルそのものを無きものにしたいという上部の強い意思が働いていたのでしょうか。死を賭してさんざん働いた戦士に対し、こんなひどい扱いをするのかと、思わずこちらも同情してしまいます。背景には、プリゴジンが前線の中で軍幹部やロシア正規兵のひ弱さをクソミソにけなしたほか、プーチン自身に対しても「何もわかっていないジーさん」といった皮肉を飛ばしていたことに反発を持たれたのかも知れません。

 戦士の背後を断つというのはロシア軍では往々に見られる形です。ワグネル自体、囚人兵が前進せず、ひるんで後退しようものなら背後から「督戦隊」なる戦闘監督者がその兵士を撃ち殺してしまいます。これは第二次大戦中でも共産党の督戦隊がロシア軍の背後を固めていました。今回は、ワグネル軍団全体が撤退するというなら、ロシアの正規軍がこれを許さないという構図でしょう。これで今度は、プリゴジンが「前進しても、後退しても地獄」といった究極の状態に置かれました。

 今、ウクライナと直接領土を接したロシアのベルゴロド州にロシア人やベラルーシ人で組織する武装組織「自由ロシア軍団」や「義勇軍団」が侵攻して、市民の生活の場でロシア側に攻撃を加えています。ウクライナ市民は毎日のようにミサイルの恐怖にさらされているのだから、”相互主義”の立場で言えば、ロシア側もこのくらいの反撃は甘んじて受けなければならないのでしょう。戦争は一方的な痛みで済むわけはありません。これでウクライナ侵攻を「対岸の火事」視していた首都モスクワ市民を含むロシア人もいささか目を覚ましたものと思われます。

 問題はワグネル軍団です。今、ロシア正規軍によって退路を断たれた彼らが「窮鼠、猫を噛む」よろしく正規軍に攻撃を仕掛けて欲しいのです。仲間割れを起こして欲しい。同じロシア人の「自由」「義勇」軍が戦っているのですから、プーチン一味に叛旗を翻して欲しい。人間に冷たくする国家や組織はいつかは崩壊するということをワグネル自身が証明して欲しいと思います。

 上の写真は、遅ればせながら、5月連休中の横浜中華街。すごい人込みでした。下の方は咲き出した野毛山公園の紫陽花。