つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

今もある東アジアの華夷秩序

クリスマスも近い12月21日夜、慶応大学東アジア研究所が開いた講演会に行ってきました。東大大学院の張啓雄という先生が中国人の国籍問題と中華思想との関係について話をしたのですが、今回、それには触れません。小生が講演のあとで先生に聞き、その答えが面白かったので、それを紹介します。
孫文は死ぬ少し前に神戸に来るのですが、そのときに、すでに帝国主義に走っている日本に対して、”日本は王道を貫け”と言い、大アジア主義を主張したのです。小生はその「王道」が中国が伝統的に持っている華夷秩序(中国を中心とするアジアの秩序)の反映ではないかと先生に問うたところ、「彼の言う大アジア主義のバックに中華思想華夷秩序の考え)がありますね」と明確に答えたのでした。
そして、張先生は「中国は中華思想を貫いており、東アジアはずっとそれでもってきた。今の中国も79年にベトナムに侵攻し、懲罰という言葉を使った。まさに中華思想の表れです」とも言うのです。
そこで、「今の中国は王道ですか、覇道ですか」と聞いたところ、それには直接答えず、「王道を実現するために、覇道を取ることもある」と言うのです。これは小生にとっては予想外の回答で、強く印象に残りました。また、福沢諭吉が唱えた脱亜入欧について、「これは、東アジアを縛ってきた華夷秩序から日本が脱却するという意思表示ですね」と聞いたら、それにも「その通り」と明確に語っていました。
中国は最近、今後の自らの国家の「台頭」と絡めて、明治以降の日本の台頭経緯を分析していますが、その中で福沢の脱亜入欧に強い関心を示しています。それは、取りも直さず、福沢の論が中国の秩序を抜けるという”危険な動き”であると判断したことにほかなりません。
今の中国は、再び東アジアに華夷秩序の構築を目指しているのです。そうであれば、日本は今後、新しい華夷秩序の中に入るか、いや、明治以降、取ってきた欧米(今は米国)への依拠を続けるか、大いなる選択課題かもしれません。でも、価値観が違う国家群はいずれ破綻しますけどね。
下の写真は、昨年貴州省に出かけた際、農村で見かけた風情。後姿の農民がいい味出しています。