つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

産経新聞に長老記者がいる理由

 先週末、都内某所で産経新聞パリ支局長の山口昌子女史の講演を聞きました。お会いするのは初めてです。小生は産経新聞の読者なので、いつも彼女の記事を拝読しておりますから、書き手がどんな人かなというのはそれなりに興味がありました。経歴にお歳は書いてないのですが、すでにアラウンド古希(あらこき)の年齢かと推察します。新聞記者特有の独善性もなく、おしとやかな女性でした。
 フランスには20年以上いて、ミッテラン大統領時代から取材されているそうな。それだけに、歴代大統領の比較、女性問題、品性、教養の話などはなかなか面白かったです。ミッテランには女性問題があったが、人気があった。その理由は、彼には教養があったから。それに比べてサルコジは教養がなかったから再選されなかったというのです。
 そういう内容はともかく、彼女が冒頭に興味深い話題を提起しました。それは、「産経新聞の海外駐在記者にはなぜ、定年退職年齢を超えたとみられる老齢の人が多いのか」という点。確かに、北京の山本勲氏もソウルの黒田勝弘氏、ワシントンの古森義久氏もすべて定年年齢(65歳)を超えています。ちなみに小生、黒田氏とは面識がありませんが、山本氏とは昔、北京、香港で赴任時期が一緒、古森氏は昨年末、ある忘年会でご一緒しました。いずれも他社から引き抜かれた優秀な記者なんですね。
 産経は海外支局だけでなく、国内の記者クラブでも大勢老齢記者がいます。1990年代、小生が郵政省の記者クラブに在籍していたとき、戦争直後のミズリー号降伏文書調印式を取材したという90歳過ぎの大大ベテラン記者がまだ現役でいたのにはさすがに驚かされました。他社ではあまり見られない人事なので、実は小生も、「なぜ老齢の人が」って、ずっと思っていました。
 講演で、山口女史は「老齢記者がいつまでもいると、後進が育たないのではないですかと、産経の経営者はよく聞かれるそうです。特に同業他社の人から」と話し出しました。女史によれば、その時、経営者はこう答えて反論するというのです。まずは「余計なお世話。内政干渉だ」と。それぞれの社にはそれぞれの企業風土があり、他社がとやかく言うことではないでしょうとのこと。
 2つ目は、後進を育てるというのはあくまで企業の論理であって、少なくとも読者の論理ではないとのこと。読者は恐らく、あまり事情を知らない半可通の記者より、長年、同じ場所で同じことを取材している記者の方が、事情を熟知しているので、間違いがなく、かつ味わいのある記事が書けると期待している−というのが同社の考え方だそうです。
 山口女史自身は産経の生え抜きで、他社から来た人ではないですが、老齢という点では上記の人たちと同類であるわけですから、彼女は多分に自己弁護のつもりで話したのだと思います。彼女は、長年のフランス取材の功績からレジオン・ドヌール勲章を受章されている由。好きな対象物をずっと取材し続けることができれば、記者人生としてはこれほど楽しいことはないでしょう。
 産経の老齢記者居続けに対する上記経営者の論は、なるほど一理ある考え方ですが、小生はやはりこの考え方に与しません。長く同じ場所にいれば、味わいのある記事が書けるかも知れませんが、それを差し引いてあまりあるマイナスもあると思います。それをるる説明すると長くなるので、次の機会に譲ります。
 下の写真は、横浜港をクルーズした時のワンショット。船内にこの日、誕生日を迎えた女性がいて、デコレーションケーキが用意されてありました。気遣いがあるイベントした。