つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

国家は国民あって初めて成り立つもの

 橋下徹というコメンテーター、これまで安全保障論などで小生の考えに近いので、高く評価していました。彼は、外交は軍事力を背景にしなければ駄目だというようなことを強調していますが、まさにその通り。クラウゼヴィッツの名著「戦争論」に中に出てくる「戦争は外交の延長線上にある」という言葉と同様に、力の弱い方が何かを主張し求めても、相手は聴く耳を待たない。それは今のロシアとウクライナの交渉を見ても力の差が歴然と出て話し合いにならないことからも良く分かります。

 でも、最近の橋下氏の言動には呆れました。ウクライナは今、ロシアに抵抗するため18歳から60歳までの男子が国外に出ることを禁止していますが、彼はこれに対し、問題だと話しています。所詮、ウクライナはロシアには敵わないので、海外脱出希望者はいったん国外に退去させるべきだと主張するのです。これってある種の無抵抗主義。これまでの彼の主張を否定するようでおかしな物言いです。案の定、日本にいて日本語のうまいウクライナ国際政治学者に反論されていました。

 橋下氏は国家成立の3要件ってご存知なんだろうか。国家というのは、一定の領土があって、そこに住民がいて、共通の政治ルールがあることで成り立ちます。まあ、国連憲章ではさらに、他国がその国を承認することを要件に加えていますが、領土、住民がもっとも大事で、もし領土があっても住民がいなくなってしまう、住民が領土を守ることを放棄して逃げてしまったら、国家とはなり得ない。やはり、国を国たらしめるためには住民はそこを守り抜かなくてはならないのです。

 歴史上も今も、国家を持ち得ない民族がいます。たとえば、パレスチナ人、クルド人、欧州にいるロマ人(ジプシー)。中国にいるチベット人ウイグル人も本来なら独自の国家を持って然るべきなのでしょうが、厳しい国際政治の中で他民族の支配下に置かれています。独自の国が持てない民族がどれだけ悲哀を味わっているか。紀元後早々に国を失い、世界に離散したユダヤ人はどれだけひどい目に遭ってきたかを見れば、すぐに分かります。欧州では何世紀にわたって「金銭好きな民」とさげすまれ、毛嫌いされ、最後はナチスドイツで大量虐殺されています。

 現在では、シリア、イラク、イラン、トルコにまたがる広大な地域に生きているクルド人は、民族を振りかざして独立運動をするとしてこれまた生存地域の国々から毛嫌いされています。特に、トルコのエルドアン大統領は国内のクルド人を圧殺し、シリアに派兵まで掃討作戦を展開しています。戦後やっと中東にイスラエルという独自国家を持ったユダヤ人は、今度は逆にそれを守り抜かんとするあまり、その地の先住民であったパレスチナ人に危害を加えています。ユダヤの悲劇がパレスチナの悲劇に置き代わったケース。中国で再教育キャンプに入れられたウイグル人を見ても然り、やはり国を持たない民族は悲惨なんです。

 という観点で見れば、橋下氏の言はいかに乱暴か。ウクライナ人が抵抗もせず逃げてしまってロシアの支配に委ねられたら、この地はすべてロシア人のものとなり、もう金輪際ウクライナ人が戻ることはできなくなりましょう。それだけ領土というのはいったん奪われたら取り返しにくいものなのです。ましてや、国民がその地の政治制度、文化、社会、伝統に誇りを持つなら、たとえ一部の命が犠牲になっても守り抜かなくてならないのです。橋下氏からはそういうコメントが欲しかったのに、、。

 上の写真は、横浜・伊勢佐木町モールのドンキー店頭にある水槽の熱帯魚。いつも通るたびに見とれてしまう。