つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

国際政治上の良心か、経済合理性かの選択

 ロシアのウクライナ侵攻に抗議するため、自民党外交部会など保守系勢力から、「ロシアへのエネルギー依存度を下げるべきだ」「サハリン2からも撤退せよ」という要求が出ています。確かに、ロシアに我が国のエネルギーを左右されるのは業腹な感じがします。ただ、そうは言ってもサハリン2から撤退していいものか。ロシア依存をなくすと、日本のエネルギーコストは3割アップすると言います。それを国民は甘受できるのか。不愉快な国との付き合い方というのは永遠のテーマであり、日本国民は今、それを十分に考えておかなくてはならないと思います。

 サハリン1がサハリン(樺太)での石油採掘であるのに対し、サハリン2とは天然ガス鉱区の採掘プロジェクトであり、すでに日本は一部にパイプラインを引いて比較的安価なエネルギーの”恩恵”を受けています。権益の半分はロシアの国営ガスプロムが握っていますが、そのほか27%程度を英蘭のシェル、13%弱を三井物産、10%を三菱商事に割り振られています。つまり、西側が半分投資しているのですが、今回のウクライナ侵攻でシェルは早々と撤退を決めました。

 シェルの権益放棄に対し、中国が早速引き継ぐ意向を示しました。シェルはもともと欧州までの距離を考えて採掘分は自国向けというより、技術協力して純粋にビジネス上の儲けを獲るだけと考えていたようです。ですから、サハリン2権益を放棄することは国際関係だけの判断でできるのです。一方、すぐに引き継ぐ意思を示した中国は恒常的にエネルギー不足にあるために、近場のサハリンの天然ガスは喉から手が出るほど魅力的。ましてや、ウクライナ戦争でもロシア支持の立場にありますから、願ってもないことでしょう。

 ですが、シェルの権益をそのまますんなり中国にというシナリオはうまくいきません。米、EU諸国などが「ウクライナ戦争では中国はロシアの同盟国。中国の火事場泥棒的な利権獲得を許すな」などという感じで、厳しい目を向けているからです。で、シェルは中国への売却を躊躇し、今、インド企業への売却を考慮しているようです。インドもウクライナ戦争ではロシア寄りの姿勢を示していますが、中国への売却に比べてそれほど国際的な非難を浴びないだろうという判断があるものと見られます。

 問題は三井、三菱の両商社が持つ日本の権益です。実は、サハリン2産出量の8割を日本が購入しているとのことで、近場のエネルギー供給によって日本のエネルギー事情はかなり良くなっていたことは確かです。まさか、ロシアのウクライナ侵略という暴挙によってこのプロジェクトが不安視されるとは、関係者はつゆ思わなかったでしょう。今、保守系の政治家から撤退論が出てきているのですが、日本では生活への影響を考えて、今すぐに撤退が可能かどうか。

 岸田首相は当面撤退はしないとの意向を表明しています。もちろん、世界的に原油高傾向にあり、中東への石油依存が厳しい状況にあることも事実。それに比べてロシア産ガスは安価であるから、本音で言えば、日本の政府も産業界も、できれば今後ずっと頼りたいとの思いがありましょう。岸田氏の地元である広島県広島ガスでは半分をロシア産に頼っていると言われ、地元からの要望もありましょうから、そう簡単にサハリン2を切ることは難しい。別に岸田首相の地盤に限らず、ロシアからのエネルギー供給は現実的に有難く、供給を絶つのは苦渋の選択になります。

 ただ、ロシアはその日本のエネルギー事情を見透かしたかのように、「ルーブルで払え」とか「ウクライナ支援は止めよ」などと言ってきています。日本はウクライナ人民に寄り添ってそれらの要求を断固撥ねつけられるか、物価高を覚悟してもサハリン2から撤退意思を示せるか。それとも、苦々しい思いながら、ロシアの要求を呑むのか。日本が権益を放棄すれば、シェルの時と同じように中国企業が「ほい、ほい」と言ったか感じで歓迎し、引き継いでいくでしょう。

 被侵略国に寄り添いたいという国際政治上の良心と、少しでも安いエネルギー、食糧を安定的に輸入したいという経済合理性の中で、二者択一が日本に突き付けられています。物価高は小生のような年金生活者に辛い面もありますが、日本も将来他国の侵略に遭う可能性もあることを考えれば、国際的な良心を取って被侵略国に連帯を示すべきだとも思いますが、、。

 上の写真は、横浜みなとみらい地区でみたフラワーデザインと垣根の花。