つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

中東情勢、複雑怪奇なり

 1939年にヒットラースターリンが手を握り、独ソ不可侵条約を結んだ時に、時の平沼騏一郎首相は「欧州情勢、複雑怪奇なり」と称して内閣総辞職してしまいました。日本にとって仮想敵であったソ連が同盟国のドイツと連携してしまったことで、日本の進むべき方向が分からなくなってしまったのです。世界情勢は、味方の集団、敵の集団という単純な括りでは理解できない、複雑、錯綜への驚きがあったでしょう。
 それにしても今の中東情勢も、なかなか読みにくい感じになっています。あたかも平沼首相が感じたように、米国も困惑しているに相違ありません。というのは、中東の民主化を促進するために、当初はシリアのアサド政権に反対し、反政府勢力を助ける動きに出ました。オバマ大統領は政府軍陣地への空爆すら考えていました。
 そしたら、反アサドの勢力の中に、スンニ派系の「イスラム国」のような過激な組織が生まれてしまいました。その昔、ソ連に支援されたアフガニスタンのカルマル政権に対応するため、イスラム諸国からムジャヘディン(聖戦士)が集まり、その中からアルカイーダのような組織が生まれたことと酷似しています。オサマ・ビンラディンもムジャヘディンの一人でした。
 イスラム国がずっとアサド政権打倒だけを目指していたら、世界は何も注目しないし、むしろ欧米諸国は彼らを支援していたかも知れません。だが、イスラム国は、シリア政府軍への攻撃はほどほどにして、イラク北部の石油利権を確保、その後にマリキ政権(8月にハイダル・アバディーが新首相に就任)打倒に向け、バクダッドに進軍してきました。真の狙いはイラクでの権力掌握にあったのでしょう。
 でも米国にしてみれば、もしイスラム国がイラクを支配したら、2003年にサダム・フセイン大統領に戦争を仕掛け、独裁政権を倒し、民主国家を作った意味がありません。そこで、イスラム国のイラク支配を阻止するために、オバマ米政権は今度はイスラム国陣地を空爆したのです。オバマ氏はあれほどシリア政府軍への空爆を躊躇していたのに、イスラム国への空爆は躊躇しませんでした。これもおかしな現象です。
 シーア派イランにしても複雑な気持ちでしょう。アサド政権は親シーア派ですが、それを倒そうとした米軍が今度は、イランと同様にシーア派のアバディ・イラク政権を助けようとしているのですから。イランも米軍への対応に苦慮していることでしょう。サウジアラビア、ヨルダン、湾岸諸国などスンニ派諸国も迷いました。イスラム国はスンニ派なので本来は支援する立場にあり、現に一部の金持ちは同組織に金を出していると言われています。
 でも今回、米軍のイラク、シリアでの対イスラム国陣地空爆に際して、これらスンニ派諸国は米軍と共同歩調を取っています。イスラム国のような過激な組織を国内に入り込ませないようにするには米軍の支援が必要と判断しているからでしょうか。中東情勢、複雑怪奇なりです。

 上の写真は、今夏、北京を訪問した際、長安街の走行中の車から撮った天安門。