つれづれなるままに-日暮日記

現世の森羅万象を心に映りゆくままに書きつくる。

時代小説はいい、特に藤沢周平

 面白いことに、若いときにまったく関心がなかったものが、歳を取るほどに魅力を感じてくることがあります。小生の場合は、日本酒と時代小説。日本酒を飲みながら、時代小説を読む夜更けはまさに至福の時間です。最近は、糖尿の問題から、ビール、日本酒の醸造酒系は避け、もっぱら焼酎を飲むようにしていますが、それでも時代小説は離せません。
 時代小説は乱読ですが、今は藤沢周平に凝っています。昔、山形に暮らしたことがあり、彼の故郷の鶴岡も何度も訪ねているので、小説の舞台となる「海坂藩」の土地鑑があります。そのために、一層親しみを感じてしまうのです。彼の作品は、武士もの、市井もの、その融合と三つに分かれますが、いずれも感情の機微に入り込むようなタッチで、読みごたえがあるものばかりです。
 武士ものではやはり「蝉しぐれ」でしょうか。武士社会のおきて、さらには幼い時からの恋ごころや友情を描いたもので、今まで読んだ藤沢作品の中ではナンバーワン。原作がいいので、テレビ劇や映画にもなりました。内野聖陽市川染五郎も好演していましたが、原作ほどの深みはありません。映像の限界でしょうか。
 すでに”老境”に入った身からすると、「三屋清左衛門残日録」も捨てがたい味があります。藩の役職を引退し、子供に家督を譲った男が行きがかりとはいえ、なお藩のために尽くすというストーリーですが、欲がない人間が達観的に世の中を見る景色がすばらしい。恐らく若者には理解できない世界でしょう。「隠し剣」シリーズも面白いですが、「蝉」や「三屋」には比べられません。
 市井ものもまた絶品ぞろい。「橋ものがたり」はなにか山本周五郎の「柳橋物語」をほうふつとさせます。恐らく山本を意識したものでしょうが、別の味わいもあります。市井ものの短編はいずれも読みごたえありますね。市井ものと武士ものをからませた「よろずや平四郎活人剣」も、主人公の人柄が愛らしくて小生の好みです。「用心棒日月抄」シリーズよりは楽しく読めました。
 時代小説はこのほか、佐伯泰英津本陽山本周五郎小松重男も好きですね。佐伯の「居眠り巖音江戸双紙」は全編40数冊のうちすでに三分の一は読んでいます。正直言って「居眠り巖音」は藤沢の文章力、中身からすると格落ちですが、いったん読み始めると止められない落花生の魅力があります。

上の写真は、香港でよく見かけるレストランの入り口付近の光景。小生は、北京ダックやローストグーズ(がちょう)が好きなので、見るとうれしくなります。